Asterisk:開演(第一話 用語ならびに付記)
‐Cleio‐のホームページに新しい一項が加わった。それは継続企画であるAsteriskである。この物語は舞台で上演されるものではなく、役者たちがネット上で「語る」ことによって進行してゆく。一話につき十数分。コンテンツとしてはささやかなものだ。
しかしもともと物語とはそういうものだと思っている。言葉は編まれ、物語に綴られる。それは語られ、聞かれ、また編まれてゆく。その繰り返しによってひとびとは繋がって来た。語るという行為はどこでも共通のものであり、それはわたしたちが生まれながらに持っている、存在の根源的な一部だ。たとえ現在、世界の多くでそうなっているように劇場が閉鎖されても。書店や図書館にゆけなくなっても。そして仮にネットすら存在しなくなり、一冊の本すら手に取れなくなったとしても、なおわたしたちはこの口で語り、耳で聞くことができる。だから語るという行為は決して消えない。物語は終わらない。この企画は(舞台表現は続けながらも)その原点に立ち還るための足場として定めたものだ。
語り手と聞き手が存在するだけで、人間の文学は既に幾千年も紡がれてきた。この大きな流れの中に、わたしたちも自分なりに、ほんのひとしずくを加えたい。それがこのAsteriskである。
各話につき、語りの中で使われる用語解説を以下の如く記す。想像の一助となれば幸いである。
第一話 用語ならびに付記
■ Before Common Era 3000s decades
紀元前三千年前後。Before Common Eraは宗教観を排した中立的な年代記述。BCE。しかしこの物語における正確な年代は存在しない。はっきりしているのは完新世の気候温暖期が終焉を迎えて世界的な再寒冷化が起こったこと、加えて火山噴火や彗星衝突による気候の激変が繰り返された期間であることのみである。
■龍の星座
りゅう座。トレミー48星座のひとつ。地球の歳差運動によってα星Thubanがこの時代の北極星となっている。ギリシャ神話に典拠し、この物語における「龍」と関連はなく、一種の暗合(偶然の一致)である。この物語は古代ギリシャ文明より遙かに古い。
■楔の文字
楔形文字。メソポタミアで生まれた世界最古の文字で表語、表音の二要素を持つ。シュメール人が用いたその古拙体は未だ解読が進んでいない。
■シェムシュ
古代メソポタミアの言葉で「光」を意味し、AGE of FLAME幻想篇にこの名で呼ばれる少年の存在が示唆されている。メソポタミア神話の太陽神シャマシュに由来するが、神話上での役割はむしろギルガメシュに関連する。
■ウルク
古代メソポタミア有数の聖都。この時代には既に原始的な王権神授という宗教/政治概念が人類を支配している。
作・演出 佐々木 総